役割等級制度の現状と本質 [6/11]

5より続く

成果主義は本当に“虚妄”なのか

BG: ここでようやく「役割等級制度」と「成果主義」についてのお話が出てきました。先ほどは「虚妄の成果主義」について触れられていましたが,これについてもう少しくわしく教えてください。

西村: 「成果主義人事制度は虚妄なのか」といったテーマでいろいろと議論され,成果主義に対する批判が出ています。

まず理解しておかなければならないのは,欧米と日本の「文化や社会システムの違い」だと思います。欧米というのは基本的には「個人主義」です。キャリア形成も個人の責任です。日本というのは,集団主義的な文化を持っていて,どうも教育そのものも会社がつけてくれるだろうという甘えた発想があると同時に,会社は会社で常に社員を管理し,会社のルールに合わせて育てていくという,そういう文化を持っています。したがって,これだけをとっても日本において成果主義を根付かせることは,文化的にも非常に難しいということがわかります。しかし,このことだけ捉えて「日本的な集団主義を打ち破って成果主義にすることは難しいだろう」という話にはならないでしょう。企業を取り巻く環境そのものは,世界的な大競争に向かっています。外資系の企業が,産業の根幹である金融業界に数多く参入してきたり,多国籍企業がどんどん入ってきて日本市場の中で活躍している,日本企業にとって経済取引上無視できない存在になっています。また,経済の低成長あるいは成熟化において,結果が重視されるのは,当たり前の話なんです。

 リストラというのは,基本的には経営者の経営責任の放棄だと考えられますが,現在の世界中の企業を相手にした大競争時代,その上,日本国内における低成長・成熟化の中において,「団塊の世代」といわれる人たちの人件費負担は企業経営にとって非常に大きいものになってきています。これまでのような年功で本当にいいのかどうか,「結果は出せていないが,保有能力は高いので賃金は高い」という構造が本当に維持できるのかというと,これはもう維持できない時代になってきています。

 また,成果主義の導入が難しいというのは,基本的には文化の違いもありますが,企業の人事部とコンサルタント主導であまりにも制度構築だけを先行させ,意識改革を後から迫るという手法を用いていることが,その批判の元になっているのも確かでしょう。

 本にも書きましたが,組織改革の方法には「構造的アプローチ」と「動機付けアプローチ」というものがあります。「構造的アプローチ」というのは,制度を構築するなどハードな構造の変革をしていくアプローチの方法なんですね。そのあとに人の心を変えていくというアプローチなんですが,この「人の心を変えていく(動機付けアプローチ)」ことがどうしても後手後手に回ってしまいます。むしろ「動機付けアプローチ」を先にして「構造的アプローチ」をするという,そういったやり方をしなければ,社内外からの批判に耐えることはできないということも言えるかと思います。

 ただ,成果主義が日本に根付かないという批判について,的を射ているとするならば,それは社会のシステムそのものが欧米と違うこと(個人主義か集団主義かということ),個人の成熟度が上がらないなど非常に重大な問題を抱えていることですね。要は会社に牛耳られてしまっているということですね。いくら自分が成長したくても,人事管理上,同期と並べられて比較され,上司や先輩を追い越すことがなかなかできない,そういう制度で固められて育っているという問題を抱えているということ。だからといって,成果主義,結果やプロセスを否定して「年功主義に戻りなさい」という答えにはなりません。これは強く言いたいですね。これまでの年功主義というのは,能力ある人材(標準的な人材)について,昇進が規定通りに標準年齢に基づいて運用されるので,基本的に欧米よりもはるかに遅い昇進・昇格になってしまうんです。欧米では優秀な人材はトントンと上がっていく。大学を卒業してMBAを持っていれば,だいたい2~3年で課長になれるわけです。そういうことはこれまでの日本ではありえません。それから年功序列というものが,従業員が権利ではなく,あくまで会社の規定による年次管理になっている(アメリカには従業員側に先任権があり,熟練者は優先的に雇用保証される)。

 それと,人事システムについては,性別,身体障害者などへの雇用の平等が確保されていない。女性の管理職なんて,日本の場合は本当に少ないですよね。そして昇進・転勤についても,個人の意思を尊重することもまずありません。会社の都合で,突然「明日,アメリカに行ってください」と転勤させられる。

 以上のようなことについて成果主義を批判する論者が踏み込んで問題追及をしてるかということですね。また,あるべき制度体系を提示しているかというと,結局はしていない。あるいは「日本型成果主義を考えるべき」といい,何ら提示をしていない。批判する以上はやはり何らかの提示をしてほしいと考えています。

7に続く


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講師紹介

孫田 良平 氏

NPO法人 企業年金・賃金研究センター 名誉顧問

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(株)メディン
 代表経営コンサルタント
  西村 聡 氏 

NPO法人 企業年金・賃金研究センター 上席講師

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