役割等級制度の現状と本質 [5/11]
役割等級制度が導入される背景
BG: なぜ,今,役割等級制度に注目が集まるようになったのでしょうか。
西村: まず,経済が高度成長を終え,低成長・成熟社会となってきたということがあります。そういった時代に,経営者は会社を何とかしようと思い,社員を「保有能力」ではなく「発揮した能力や結果」を評価できるような人事制度を構築しなければいけないと考えます。
企業はまた,経営革新,言い換えるなら「ビジネスプロセスの改革」をしなければなりません。それが「リエンジニアリング」といわれているものです。
特に注目すべきは,1980年代後半からアメリカで行われてきた「リエンジニアリング」の影響が,アメリカにおいて人事制度にまで及んでいるということについて,日本ではあまりにも語られていないことです。アメリカの場合,1980年代に日本企業に打ち負かされたことがありました。その原因を追及した結果,各人が決められた仕事しか行っていなかったこと,全体最適にはなっていなかったこと,あるいは部門間の壁が厚かったこと,結果として競争力を失ったことがわかったのです。そこで何をしたかというと,リエンジニアリングを行い,部門間の壁を突き破り,社員1人ひとりが複数の職務をこなすといったように,部門をまたがった仕事をやりなさい,ということになったのです。これが1990年代以降現在のアメリカの繁栄につながってきました。
もう1つは,先ほど申し上げた「ビジネスプロセス改革」については,経営戦略論そのものも変わってきたことが挙げられます。これまでの「分析的経営戦略論」が「プロセス重視型の経営戦略論」になってきました。現場の方向性を経営トップに上げていき,戦略の見直しや会社の仕組みそのものを変えていく。そういった戦略論を採るようになってきたのです。プロセスさえ機能していれば,その有効性を発揮できる会社の仕組みになっていくという「プロセス・マネジメント」を1990年代にアメリカがやってきたのです。
またここで補足をしますと,1人の人間が複数の職務をするようになってきたという考え方は「ブロードバンディング」という言葉でよく語られています。ブロードバンディングについては「職務数が多いから整理・統合して簡単にしました」と言われていますが,この背景には,先ほど申し上げた「リエンジニアリング」,「ビジネスプロセス改革」の中で統合せざるを得なかったということが前提としてありますので,もともとは人事的側面から出た言葉ではないわけです。このことをよく理解しておく必要があります。
日本ではバブルが崩壊して「失われた10年」と言われ,少し回復の兆しが見えているものの未だに浮上してきていません。その原因は,日本のこれまでの組織社会,つまりタテ社会を形成してきた年功序列,これを支えてきた人事システム,特に職能資格制度の影響が非常に大きいように思います。
人事システムというものはビジネスモデルと同様に時代に応じて変化させていくものだと思います。今の日本の経済状況,経営環境を考えた場合に,結果が求められるのは当然の話です。それが「結果主義」ではなく,プロセスも含めた「成果主義」であるという流れになっていくのは当たり前のことであって,職能資格制度,あるいは年功序列に戻れというような,基本的に高度経済成長時代の古き良き時代の制度には戻れないと私は考えています。これらのことがまず背景としてあります。
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