役割等級制度の現状と本質 [3/11]
役割等級制度と職務等級制度の違い
BG: では,今までご説明いただいたことをもとに,「役割等級制度」についての先生のお考えを教えてください
西村: 職務等級制度の基本的なことは今述べてきたことですけれども,「役割等級制度」という場合,経営戦略上導き出される「ビジネスプロセス」と,ビジネスプロセスにおける必要な機能から展開される職務を,人事管理上,「職務」あるいは「プロセス統合職務」として整理し,これを序列化し管理する制度だといえます。これまでの職務等級制度を,企業のプロセス機能的側面から変更を加えたものであり,プロセス機能を果たすための職務行動も重視されることになってくるということです。ここでいう「プロセス機能」というのは,職能機能,ピラミッド型のタテ割機能のみではないことに注意が必要です。
これは私の本の中で言うと,ホテルの事例で図式化し,クレジット会社の例でその内容を具体的に解説しています。要は,お客様のために横串をさしましょうということ。縦軸(職能機能)では対応できないということなんですね。つまり役割等級制度という場合は,経営戦略を明確にした上で,ビジネスプロセスを変革していること,言い換えればBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の実行が前提となります。これをやらなければ職務給と同じです。これらのアプローチを実行せずに役割等級制度を導入・構築している場合は,役割等級制度とは言い難いと判断できます。単なる現状での職務分析,職務編成による職務評価によって構築される制度は,職務等級制度ということになるでしょう。
「ブロードバンディング」という言葉をよく耳にします。これは「これまでの細かく定義された職務では環境変化に対応できなくなってきたため,等級幅を大きなくくりに見直し職務に柔軟性を与えるもの」と簡単に理解されている方が多いかもしれませんが,この背景には,先ほど申し上げたように,1980年代後半からアメリカの企業で実行された「リエンジニアリング」が背景にあることを見落としてはなりません。顧客本位にビジネスを考えたら最適なビジネスプロセスが出来上がり,その中においてプロセス自体が見直され,これまで分散していた機能が統廃合されていく中で,組織は迅速な意思決定のためにマトリックス化,あるいはフラット化されてくる。このため,人間が関与するための職務そのものが当然のことながら統廃合されてきた結果であるということを理解することが必要です。
人事考課,業績評価においても,プロセス成果や職務行動の評価をせず,能力レベルのみで評価しているものがあります。職能資格制度とほとんど変わりないのに「役割」と名前を変えているだけのような企業の人事考課制度を見ると,やっぱり中身は職能なんですよね。コンピテンシーも何も触れていない。具体的な行動レベルには触れていないというものが多いんですね。名前を「職能」から「役割」に変えるだけで従来型の人事制度を役割等級制度としているものについては,これこそ,よく言われるところの「虚妄の成果主義」と言えるのではないでしょうか。職能資格制度なのに,役割等級制度と言っていること自体がもうおかしいのです。
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